気になっても近づいちゃだめ

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「これはダメ!これはダメなやつ!」

 必死に走るのは岩山を超え、その向こうの街を目指していた魔法猫。

バサリ、バサリ、

 大きな翼を羽ばたかせ、巨大なドラゴンがそんな彼の後ろからゆっくりと近づいてきます。
大きく開いた口からは鋭い牙が剝き出しになり、立派に生えた2本の角も、顔の周りの棘も、ごつごつした鱗も、この場にある岩よりも堅そうです。

「なんで!僕が!こんな目に!」

 文句を言いながらも一生懸命走る猫は、あまりの怖さに今にも泣きだしそう。
あの大きな口で噛みつかれたらと思うと…猫は身震いし必死に前へ前へと足を動かします。

 ここは『ごろ岩の山脈』。

ごつごつとした岩山で生き物が少なく道幅も広いため、普段は旅の通り道としてよく使われている場所。
それなのに…どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

「もうやだー!!」

 バタバタと駆けていく猫の足は、彼が生まれてから今までで一番早く動いているかもしれません。

可愛そうに。
彼は知らなかったのです。

岩のドラゴンは水が嫌いで、お天気の悪い日はすごく怒りっぽくなってしまうことを。

それでも近づかなければ襲われることはないものの、お調子者の彼はつい出来心でドラゴンを見に行ってしまったのです。
今にも雨が降りそうな厚い雲のかかったこんな時に。

ぽつ…ぽつ…ぽつぽつ、ザー。

 ついに雨が降り出しました。
恐ろしい岩のドラゴンに追われ、雨に打たれ、泥だらけになりながら必死で走る猫。
どこで擦りむいたのか、知らない間に手足にはたくさんの擦り傷ができ、ついにはまん丸の瞳から大粒の涙もこぼれてきました。

「うわーん!誰か助けてよー!」

バサリ、バサリ。

 いよいよ羽音とともに重なった影が一気に大きくなると、猫は思わず強く目をつぶり、両手で頭を覆いその場にしゃがみ込みました。

…………ザー。

「…あれ?」

 あれからどれくらいこうしていたのか。

数秒なのか数時間なのか。

少しずつ冷静になり、それと一緒に雨の音が徐々に大きくなっていく感覚。ゆっくりと目を開く猫。

「いない?」

 彼は幸運だったといっていいでしょう。
もうだめかと思った瞬間、雨に濡れることを嫌った岩のドラゴンは気が変わり急いで巣に返っていったのです。
何が何だかわかっていない猫は一度もとの村へ引き返すことにし、足早に歩きながらも「もう危ないものには近づかない」と心に強く誓ったのでした。

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