
「アリガ、トウ。」
柔らかな月の光が二人を優しく照らします。
そよそよと足元の草が風に揺れ、猫の持つ大きな杖の先も淡く輝いています。
膝をついているのは『スケルトンリザード』。
死んでしまったリザードがその後も強い思いを残すことで生まれます。
体がごつごつの骨だけになっても、目の奥が黒く染まっても、それでも消えることはありません。まだやり残したことがあるのです。
それなのにこの『草生えの墓地』から離れることができず、長い年月をかけて少しずつ記憶を失っていきました。
「ガガ、ググ。ガ、グガガ。」
いつからだろう。
言葉を失ったのは。
いつからだろう。
光を失ったのは。
いつからだろう。
風を失ったは。
色も手触りも味も臭いも。
何も感じない。
かろうじて音は少しだけ残ってる。
楽しそうに鳴く虫の声が余計に自分を嫌な気持ちにさせる。
体はもう骨になってしまったのか?
わからない。
心臓がない。
でも胸の奥が痛い。
ずっとずっと。
ずっと痛い。
痛みは感じないのに。
ずっと痛い。
ずっと会いたい。
なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ…
…
「…安心して。もう苦しまなくていいよ。」
ある日、彼に声をかけたのは一匹の白い猫でした。
土色のローブと大きな帽子に身を包み、優しく微笑んでいました。
「消えられない理由があったんだね。ごめんね。その理由までは僕にはわからないんだ。」
…
聞こえた。
何か聞こえた。
声?
痛い。
会いたい。
痛い。
声?
声!
「神様は優しいから、次の命でもきっとチャンスをくれるはず。命は廻るんだ。」
その声が届いたのか、スケルトンリザードは膝をつくと少し俯きました。
骨の体がだんだん細い光の粒となって、流れる糸のように消えていきます。
「アリガ、トウ。」
柔らかな月の光に照らされ、そよそよと草が風に揺れていました。
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