カランカラン…
お店の出入り口に取り付けられたベルが鳴り、一人のお客が帰っていきました。
お客を見送った店主の猫は銀貨を手元の入れ物にしまうと、今売れた商品の置かれていた棚を整頓し始めました。
お店の棚には様々な魔法の薬や薬草が置かれ、窓から差し込む夕日に照らされると、きらきらと輝きを放って思わず見とれてしまいそうです。
「…ふう、ようやっと落ち着いたかね。ずっと立っているとさすがに腰がね。そろそろ今日は店仕舞いにせんとだね。」
今日は街で大きなお祭りが開催されていて、朝からたくさんの猫がお店を訪れました。
まさに書き入れ時と忙しく働いていた店主でしたが、とうとう疲れてしまったようで、古い木でできた椅子にちょこんと座りました。
日の傾きとともに静かになったお店の中では、つい先ほどまでの慌ただしかった時間が嘘のように少し寂しささえ感じます。
それでも店主の猫からは、なんだかワクワクしたような、楽し気な雰囲気を感じます。
実はこのお祭りでは日が暮れると、豊穣の神様を象った銅像を囲んで『またたび音頭』を踊るのが名物となっていて、もちろん店主も踊りの輪に加わるため、今日は早めに店仕舞いと決めていたようです。
早速片付けの準備に取り掛かったのですが…
「うーん、でももうちょっとだけ休憩だね。」
大忙しだったせいか腰の痛みや足の疲れを感じ、立ち上がるまでには時間がかかりそうでした。
しばらくぼーっと目の前を見つめた後、ふと思い立ったように戸棚へ手をかけると、
「そうそう、ちょうど余っていた魔法薬があっただね。」
透明のガラス瓶に入った緑色の液体を取り出しました。
緑の魔法薬には体力を回復させ、体を元気にしてくれる効果があります。
ちょびちょび…ちょびちょび…
舌を鳴らし少しずつ薬を飲む店主。
ちょびちょび…ちょびちょび…
「さて、まずはお店の看板を下げとかないとだね。」
半分ほど飲んだところで満足したのか、少し元気になった体を重たそうに持ち上げ、椅子から降りようとした瞬間。
カランカラン…
どうやら最後の最後にお客さんがやってきたようです。
「……いらっしゃいませ!魔法薬店にようこそだね!」
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