欲しかったもの

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『月明かりの昼砂漠』

 ここは一年中、一日中、月の出ている不思議な場所。
太陽が昇ることはなく、大きく大きく輝く月が彼方まで広がった砂の大地を、まるで昼間のように照らし続けています。

 ここへ着て何日経ったのか、昼と夜の間のようなこの場所では、時間を確認する魔道具がなければ何もわからなくなってしまいます。

「あそこに見えるのがオアシスだよね?ここまで来れば大丈夫、あとは歩いて行ける。これは案内料の銀貨5枚だよ。どうもありがとう。」

 そう言って颯爽と歩きだしたのは一匹の魔法猫。
この砂漠での道案内を生業とする砂人族に別れを告げ、この先のオアシスへ向かっているようです。

「しかし本当に綺麗で不思議な場所だな…そりゃこんな場所にあるオアシスなら特別な水が手に入るわけだ。」

 この砂漠の空の上には自然から生み出された魔法の力が溜まりやすく、ずっと月が出ているのもどうやらその力が関係しているといわれています。

その魔法の力をたっぷりと含んだ月明かりに照らされ続けた湖の水は、長い年月を経て特別な力を持つ『月光水』へと変化するのです。

この水を飲めば立ちどころに体中を魔法の力が巡り、少しの時間なら普段使うことのできない強い魔法も使うことができるようになります。

いざという時のために一瓶持ち歩きたいと思う魔法猫が多いのも頷けます。
しかしお店で売っているものは驚くほど値段が高く買うことのできる猫は少ないようです。

「この広い砂漠を超えるのも大変だし、重くてたくさんは持ち運べないし、あの値段になるわけだ。」

 そんな独り言を混じらせながら黙々と歩を進める猫。
ザッザッと足を取られないように一歩ずつ踏みしめながら歩いていると、砂漠の砂がサラサラしたものからだんだんと水っぽく、次第に土へと変わり、目の前には鮮やかに茂った緑の草木と大きな湖が見えてきました。

「よし!やっと着いた!この湖の水が『月光水』か!早速汲んでこの瓶に入れてっと。瓶は三本持ってきたから一つくらい売ってしまってもいいな…」

 嬉しそうに瓶を沈めて水を汲む猫。

…しばらくすると「はっ」と気づいたように立ち上がりこう言いました。

「しまった。砂人族もうどっか行っちゃったよね。どうやって帰ろう…」

 帰り道とはいえ、砂人族がいなければきっと迷ってしまう。
結局、砂人族を探すために空を飛ぶ魔法を使い、二瓶飲んでしまったようです。

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